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「すごいすごい! イチくん、さすがだね♪」
喜ぶ彼女に、イチくん――俊一は、少し笑いながら、遠い眼で応える。
「ここからの景色さ。雪が降ったら、すごく綺麗だと想ってたんだ」
「うん、さすがだよ♪」
俊一からふりむいて、彼女は俺にも笑顔を向ける。
「ねね、ニイくんもそう想うでしょ?」
彼女は、俺のことをニイくんと呼ぶ。
――俊二って名前の、二番を強くした、あだ名。
「……確かに、ね」
うなずいて、彼女に同意する。
確かに、眼の前の景色に心を動かされたのは、嘘じゃなかった。
まるで、別の世界に入ってしまったような、一面の銀世界。
(写真。撮りたいな)
――なにかの形で、この嬉しさを、残しておきたい。
ふと、そんなことを想うようになるくらい、俺の中のなにかが変わる景色。
変わってしまう景色を楽しむのは、前から、どうにも苦手だったから。
「来てよかった! うん、さいっこうな景色だよ♪」
……それに、もう一つ、残しておきたいものが見えた。
いつもよく笑い、喜ぶ、幼なじみの彼女――明美。
本当に、今のはしゃぐ姿が、とても印象的で。
同時に、その笑顔と喜びが。
俺と同じ顔の、兄へと向けられていることに。
複雑な想いを、抱いた。
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