溶けない景色を一番にして

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「周りを見ろって、よく言われるからさ」  親や先生によく注意される、俺への言葉。  逆に、成績優秀、人当たりもよく、家事手伝いもしっかりしてる。  それが、俊一。  だからいつも、同じ顔をしてるのに、みんなの視線は俊一へ向いている。  ――彼女も、それは同じだ。 「ニイくんのまっすぐなところ、いいと想うけどなぁ」  彼女は、でも、俺のこともよく見ている。  勉強も遊びも友達関係も、一つのことに集中して、つい他のことを忘れやすい。  それが、俺。  ――忘れすぎる、って、親や先生にはよく言われる。 「そんなに、よくなんかないよ」 「ねね、そんなに落ち込まないで? ほら、笑って笑って♪」  無神経とも言える、彼女の明るさ。  すぐ、暗く落ち込む性格の俺に、その眩しさはとても羨ましかった。 「そうだよ、特に写真! ニイくんの撮ったの、きれいだよね♪ いっぱい、たまったんじゃない?」 「まぁ、ね」  最近、ようやく持たせてもらえるようになった、携帯電話。  少し触って、カメラで撮った写真を開く。  気づかないうちに、いっぱいたまった、たくさんの場所の風景。 (あの日の雪景色も、今想えば、撮っておきたかったな)  ――あの日の景色と、喜ぶ彼女の笑顔が、この趣味の始まりだから。
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