溶けない景色を一番にして

8/19

0人が本棚に入れています
本棚に追加
/19ページ
 ※※※ 「……ニイくん、本気で言ってるの?」  困った顔の彼女に、俺はうなずく。 「――雪の日の夜に、山の上の、神社へ行こう」  冷たい風が吹く、下校中。  ずっと考えていたことを、二人に言った。 「でも、あの神社、明かりもなにもないよ」 「知ってる。だけど、だから、朝日がすごくキレイなんだ」  裏山にひっそりと建つ、長い石段の先にある神社。  もう、あまり人が行かないからか、建物はボロボロになりつつあるけれど。 (一度だけ、こっそり見に行ったことがある)  切り立った崖から覗く、森の深さと朝日の景色が、すごくキレイだった。 「雪の日なら、もっと、キレイだと想う」  だから、あそこからなら、越えられると想った。  ――あの日に見た、別世界の白さを。 「……三人で、行こう」  二人で、とは、言えなかった。 (三人なら、せめて、いつもどおりにできるから)  それは、逃げだとも、わかっていたけれど。  ――でも、そんな甘い考えは、一言で終わる。 「やめよう。私、あの場所に行くの、危険だと想う」  いつもの彼女らしくない、きっぱりとした、硬い声で。
/19ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加