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「俺もそう想う。あそこの石段、普段だって危からな」
あわせるように、俊一も危険だと言ってくる。
「……でも、雪の日の景色が好きだって、言ってたじゃないか」
食い下がる俺に、彼女は嫌そうな顔をする。
「私は、危険なことまでして、行きたくないよ」
「……でも、あそこからの朝日は、絶対に綺麗だよ」
その顔に、堪えられなくて、声が小さくなる。
(去年、三人で見た、あの景色よりも)
「――でも、私は。ごめん、行けないよ」
(……俊一が言ったら、彼女は、行くんだろうか)
そんなことを、一瞬、考えてもしまう。
「ね、去年と同じ場所に行こう。それなら、安全だから。ね?」
いつもの優しい声で、そう言う彼女。
ふと、今感じた気持ちに、記憶が重なる。
……親戚のお姉さんが、しぶる俺をなだめる時のような、むずがゆさ。
(俺は、同じ姿なのに、違うんだな)
少しして、俺は、彼女に言った。
「わかった。そうするよ」
そう言う俺に、彼女は安心するような息を吐いた。
俊一は、何も言わなかった。
それから三人で、いつものように帰宅して。
いつものように、食事して。
いつものように、寝るまでの時間をすごして。
いつものように、布団へ入った。
――そして、いつもじゃない時間に、布団から抜け出した。
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