その壱

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その壱

太吉(たきち)は十五で、ひとりぼっちになってしまった。 「嫁もらって童子(わらし)たくさんできたら、これっぽっちの田んぼでは食えねえから、山で炭焼きするとええ」 病いでぽっくりいく前、お爺がくどくど言い聞かせたものだから、太吉はすぐに山に入った。 山には、お爺のそのまたお爺がたてた炭焼き小屋があった。 まっ黒にすすけた古ぼけた小屋でも、火をおこせばあたたかくすごせる。 太吉は冬になるまで、せっせと木をあつめて炭焼きの準備をした。 ある日、太吉は森のなかでケガをした小さいキツネを見つけた。 「もうちっと大きければ、いい毛皮になるのにな」 キツネの足から血がでていたので、太吉は手ぬぐいをやぶって手当してやった。 「ほらよ、ちび」 ずだ袋からとりだしたイノシシのほし肉をちぎってさしだすと、キツネはきょとんとした目で太吉を見あげた。 「おめえも一人ぼっちなんだろ。オイラもだから仲間だな」 キツネは、くうん、とのどを鳴らした。 「冬のあいだここにいるから、どうしてもこまったら来いよ」 太吉はキツネのあたまをなでて言った。
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