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追い出すべきじゃないと思った。
金曜まで出社を任せ、それからは一日ごとに交替で仕事に行くようになった。俺は徐々に健康を取り戻して行った。朝食を整えて起こしてくれるし、家に帰ると食事をともにしてくれる人が待っている。そのことは生活にハリを持たせた。俺が料理当番の日は、負けずに家事に精を出した。それも気晴らしになり、褒めてもらえるとやり甲斐も出てきた。
一年ほど経って、ある日帰宅すると、部屋は真っ暗で、俺がいなかった。買い出しにでも出かけているのだろうか?しばらく待っても戻る様子がないので、冷蔵庫の中にあった生姜焼きを温め、満腹になると早々に寝てしまった。
次の日も、また次の日も、俺は戻ってこなかった。どうしたのだろうか?俺が嫌になったのだろうか?だとしても無理はない。俺と同じようにあいつも楽しかったという証拠はない。
その夜も、誰にもおやすみを言わずにベッドに入る。ふと、一つの考えが頭に浮かぶ。残された俺は、本当に俺だろうか?もう一人のほうではないのか?今の俺はすっかり健康で、以前とは別人のようだ。俺が俺だという証拠があるだろうか?俺は、もう一人のほうではないのか。だとすると、俺は一体どこへ行ってしまったのだろうか……。
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