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 仕事が終わって裏に戻ってきたが、なぜだろう、スーツが脱げない。  スーツと言っても、社会人の業のブラックさを象徴し、カラフルな首輪とセットになった例のあれじゃなくて、これだ。 「あ、平成ライダーだ!」 「こらこら、裏、入ってきちゃだめだよ。お母さんも、写真撮ってないで出て行ってください。ひら……平成ライダーも、ポーズ取ってないで」  僕は平成ライダーが変身時に行う、平成と書かれた額を掲げるポーズを取って、写真に応じる。左右の肘についている五つずつの棘を見せるのがポイントだ。ここに、失われた十年に対する怒りが込められているらしい。とはいえ、既に変身している以上、このポーズを取る必要はないはずだ。などと、地元のご当地ヒーローに厳密さを求めてはいけない。 「ひら?」子どもが耳ざとくツッコミを入れる。こっちは僕の責任じゃない。市役所の観光課の小間さんが慌てて言い繕う。 「平成ライダーの本当の名前だよ。ひらなり君、っていうんだ。でも、内緒だからね。市役所でも限られた人しか知らないんだ」  僕の名前が平間でよかったな、と思いつつ、そんな行き当たりばったりに設定を足したりして大丈夫か、と心配していると、 「へー、そうなんだ。おかーさん! 平成ライダーの本当の名前、聞いちゃった!」 「だから、内緒だって!」  困るのは僕ではなく、小間さんだから、などと考えている場合ではなく、僕はこのスーツが脱げなくて困っていたのだ。親子が外に出されたのを見計らって、小道具の撤収を行っていた根木さんを捕まえる。ゆるふわ系の外見をしているが、器用で力が強い。
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