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「根木さん! これ、今日新しく来たスーツなんですけど、後ろのチャック、開かないんですよ」 「うら若き乙女に、男子大学生の服を脱がせろと」 「うら若くも乙女でもないので、ホントに助けてください」 「チャックじゃない、シームレス。ここの町工場と共同開発した新製品なんだから、ちゃんと名前おぼえてよね」 「はいはい、シームレスね。名前おぼえたんで、脱がせてください」 「しょうがないなあ。あれ、継ぎ目がない。どこから脱がせるんだっけ」 「知りませんよ。僕、次、引っ越しのバイトがあるんで、困るんですけど」 「こっちは困らないよ。どうせ、次のイベントは二週間後だし」 「それまで着てろと」 「だって、ホントにわかんない。工場の人に聞けば分かると思うけど」 「だからって、それまで着っ放しってわけにもいかないでしょ。ねえ、小間さん」  親子対応を終えた小間さんが、顔から首から汗を滴らせながら戻ってきた。小間さんは太っているわけでもないのに、なぜかいつも汗をかいている。スーツを着ている僕なんかより、ずっと。 「ああ、別にいいよ。引っ越しって、マガモ引越センターでしょ。マガモさん、そういうの好きだから。僕、役所に戻るから、ついでに車で送ってあげるよ」  小間さんは至ってまじめな表情だが、根木さんは必死に笑いをこらえている。頭にくるが、小間さんの感覚の方がどう考えてもおかしい。首を傾げようとするが、スーツのせいで首がうまく曲がらない。少し傾いた頭を見た根木さんがついに爆笑した。  まあ、かわいいわな。
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