言わぬが花だがいずれ散る

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(……いやなこと、言っちゃったなぁ) 車を車庫に入れた私は、シートベルトを外して、リクライニングを倒した。エンジンを止めた車内は、急速に冷えていく。 達也が私と同じ大学を受けようとしている理由は分かっていたのに、つい意地悪なことを言ってしまった。高校受験の時、私が女子高を受けると言ったら、この世の終わりみたいな顔をされたときから、達也の考えることはわかっていたのに。 センター試験前日に体調を崩したのは、完全に自分の不注意だった。けれど、センター試験で点数が取れなかったのは、体調不良が原因ではなかった。 純粋に、実力が足りなかった。プレテストでいい点が取れたのは、たまたまだったんだと、身をもって知った。けれど卑怯な私は、体調不良だったからと、自分にも、周りにも、言い訳をしたのだ。 ○○大学は、第二志望だった。理由は、達也が挙げたものとほぼ同じだった。 浪人してまで第一志望を受けようという気は、何故か湧かなかった。去年はその理由がわからなかったが、今ならなんとなくわかる気がした。きっと私は、達也の一つ上でいたかったのだ。 達也が好きだ。けれど、今は言うべきではないと、なんとなくわかる。 『いつか、話すから』 達也は言った。……話してくれるだろうか。 もし私が思い浮かべているような理由じゃなかったらどうしよう。少し不安になった。 リクライニングを起こす。ワイパーが止まったフロントガラスに、雪は積もり始めていた。 (……雪、止むかなぁ) 彼は話してくれるだろうか。私は、受け入れられるだろうか。 雪はいつか止む。春はいずれ来る。 雪が止んだら、答えを考えよう。
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