言わぬが花だがいずれ散る

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夏美は、2軒隣に住んでいる、いわゆる幼馴染だ。一つ年上で、今は大学一年生。実家から通える範囲の大学に通っているので、今でも家族ぐるみで交流がある。と言っても今年の俺は受験が控えていることもあり、クリスマスも正月も塾に缶詰めだったため、お盆以来顔を合わせていなかった。 「そうだっけ……っくしゅん」 夏美は小さいくしゃみをした。 「うあー、寒い……早く帰ろう、ほら助手席乗って」 促されるままに、助手席に乗った。ドアを閉めると、つんと煙草の匂いがした。 「なっちゃん煙草吸うの?」 言ってから、聞いたことを少し後悔した。もし夏美じゃないとしたら、それは、もしかしたら―――そんな俺の心配をよそに、夏美はきょとんとした顔で答えた。 「?あぁ……いや、これ父さんの車なの。来る前に消臭スプレーしたんだけど、ごめん、臭かった?」 「ううん、大丈夫。そこまで臭くない」 平静を装って答える。返答の内容に、ほっとしたのは内緒だ。 「シートベルトした?車出すよ」 「うん」 エンジン音が鳴る。車はゆっくり走り出し、水と混じった雪を踏む音が聞こえる。 「チェーン巻いてないけど大丈夫なの?」 「なんか、すたっどれすたいや?に変えたから雪の上も大丈夫なんだって。父さんが自慢げに言ってた」 「ふーん」 会話が途切れた。ぼんやりと前を眺めると、車どころか歩行者すらほとんど見られず、道路が広く感じられた。 今この瞬間、この世界には、俺と夏美しかいないような感覚すらあった。     
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