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先に口を開いたのは夏美だった。
「……そういえばさ、達也ってうちの大学受けるんだね」
「……なんで知ってんの」
「おばさんに聞いた」
合格してから報告しようと思っていたのに……頭の中で母を恨んだ。
そんな俺の気持ちをよそに、夏美はつづけた。
「なんで言ってくれなかったの?言ってくれれば赤本貸したのに」
「……受かんなかったら、ダサいじゃん」
「ダサくないでしょ」
夏美は笑いながら言った。
「センターは何点取れたの?」
「自己採点だと830くらい」
「いいじゃん、二次は300取れれば余裕持って受かりそうね」
その言葉に、俺は目を瞬いた。
「……そこまで分かんの」
「私だって去年は合格ライン必死に計算してたもん。私は達也よりセンター悪かったから、二次で挽回したしね」
「…………」
夏美がセンターで点数を落とした理由を、俺は知っている。それは、
「ねぇ」
「?」
思考が妨げられた。夏美の表情から、笑みは消えていた。
「なんでもっと上の大学、受けようと思わなかったの?」
人気のない道は続く。車は安全運転で進む。
家はまだ見えない。
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