言わぬが花だがいずれ散る

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夏美は、俺の家の前で車を止めた。 「はい到着ー。道凍ってなくてよかったね」 「そうだね。送ってくれてありがと」 車を降りる。塾を出たときは視界を阻むくらい降っていた雪は、ほとんど止んでいた。これなら、明日は自転車で塾に行けるだろう。 「今日は意地悪な質問してごめんね。試験頑張って」 運転席の夏美は、微笑んで言った。 「ううん。……あのさ」 「うん?」 俺は少し屈んで、夏美と視線を合わせた。夏美は微笑んだまま、首をかしげている。 「……どうしても○○大学に行きたかった理由、いつか話すから」 夏美は少しだけ目を見開いた。そして、微笑んだ。 「……うん。待ってるね」 ドアを閉めた。車は徐行して、2軒先で止まった。 それを見届けた俺は、家に入る。 今日言えなかった言葉を胸にしまい込んで、今日出せなかった勇気を心にしまい込んで。
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