幸せの翼

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 不思議な事に、私は誰に見つかる事も迷う事もなく、いつの間にか幸一のいるVIPルームへと辿り着いていた。  幸一からのメッセージには、『ノックをせずに入って来て』と書いてあった。  高鳴る鼓動のせいで少し胸が苦しい。  私は思い切って、静かにその部屋の引き戸を引いた。  真っ先に目に飛び込んで来たのは、青白い電飾の煌めき。  薄暗い部屋の中には、雪のように白いツリーが備え付けられている。 「メリークリスマス翼……来てくれてありがとう。こんな所まで、ごめんね」  ベッドに横たわったままの幸一が、苦しそうに話し掛けて来る。  私は思わず、幸一の傍へと駆け寄った。 「幸一、苦しいの? 急にこんな……昨日までは元気に歩き回っていたのに」 「うん、今は贖罪の最中だから。もう両足と腕の感覚もない。視力も怪しくなって来た」  その言葉に、私は呆然とした。  けれども、彼の虚ろな瞳に嘘はない。 「贖罪って……何言ってるの? 早く先生を呼ばなくちゃ!」  慌ててナースコールを押そうと伸ばした私の手を、幸一の左手が制止する。 「呼ばなくていいよ。それより僕の話を聞いて、翼」 「何なの? 話なら後で聞くから!」 「今じゃないと間に合わないんだ」
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