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彼に出会ったのは秋の終わり、入院先での病室だった。
「こんにちは、新入りさん」
扉から顔を覗かせ、そう和やかに声を掛けて来た彼に対して私は
「……どうも」
と、そんな素っ気ない返事しか出来なかった。
その頃の私は、正直気持ちに余裕が無かった。
誰とも話なんてしたくなかったし、構っても欲しくなかった。
「えーと、君は槙野翼ちゃんて言うんだね。僕は……」
「桜塚幸一さんでしょ? うちのママが言ってたわ、有名大手企業の御曹司だってね。そんな人が何だって一般病棟の大部屋なんかで入院してる訳?」
「僕がそうして欲しいと希望したからだよ。親はVIPルームに入れたがってたけど、そうするとこんな風には歩き回れないし、何だか隔離されてるみたいで嫌だったんだ」
病院のVIPルーム?
そんな言葉は大物政治家の言い訳でくらいしか聞いた事がない。
なるほど、噂通りの大層なお坊ちゃまなのだなと、私は嫌みたっぷり彼に言い返してやった。
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