13人が本棚に入れています
本棚に追加
「ふーん、金持ちの気まぐれってやつ? たまには庶民の生活にも触れてみたいとかって、ある意味贅沢ね」
「そうだね。本当にあの頃の僕は、そう言う事すらも全く顧みないで生きていたんだなと思うよ」
遠い目でぼそりと呟く彼を見て、突然何を言い出すのかと訝しんだ。
あの頃の僕って何? 一体いつ頃の話をしているの?
そうやって人生を振り返る事が出来る程に長く生きて来たとでも言うのだろうか、この人は。
ふむ、と小首を傾げて私はさりげなく彼を観察してみた。
華奢な体つきに、雪のように透き通った白い肌。
黒目がちな瞳が愛らしく、どちらかと言うと童顔だと思う。
下手をすると女の子にも見えかねない。
どう考えても、私と同じ高校生くらいだ。
その視線に気付いたのか、スッと彼は私に右手を差し出して来た。
「同じ年頃の友達が欲しかったんだ。よろしくね、翼ちゃん」
差し出された手を無視する訳にもいかず、私も渋々と手を出した。
やんわりと握って来た彼の手は、まるでつきたてのお餅みたいにふわふわとしている。
なるほど、正真正銘これは苦労知らずのお坊ちゃまの手だ。
馴れ馴れしいやつと、最初はそう思っていた。
けれども毎日言葉を交わす内、私達は急速に仲良くなっていった。
最初のコメントを投稿しよう!