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その日から博士は私と暮らすようになった。
博士は、なれない暮らしに初めは戸惑っていた様子だったが、段々慣れてくるとよく科学者達の元へ行った。
帰ってくると私とよくその日にあったくだらない話や博士が生きていた頃の話をよくした。
「博士、この都市は何のおとぎ話をモチーフに作られたか知っていますか」
「子供が敬語なんて使わなくていいのよ。もっと気楽に話して」
それは無礼に値するんじゃないだろうか、とも思ったが博士が言うならそうしよう。
子供ではないが。何度否定しても博士は取り合ってくれないのだ。
「そうね。ウォーターシエルにはモチーフがある。海底を選んだ理由は環境的な面が強いけど、設計を担当した人は人魚姫、というお話が好きだったのよ」
まさか本当にこれだけ忠実に作り上げるとは思わなかったけど、とクスクス笑いながら続けた。
「それはどんな話?」
「悲恋よ。嵐の日に人間の王子様を助けて恋に落ちた人魚が地上へ行くために魔女と取引をするの」
何やら聞きなれない単語がたくさん出てきた。確か、王子というのは位を指すものだったか。
それよりも……。
「アンドロイドが恋をする?人間に?」
「馬鹿ね、その時代はアンドロイドなんていないわよ。人魚は架空の生物だったの」
博士は膝を叩いて爆笑している。私は恥ずかしくなった。
よくよく考えれば人魚は確かに架空の生物だ……。
あまりにも身近に人魚型アンドロイドを見ているので、ついその気になってしまった。
博士が話を続ける。
「人魚は地上に出るために足を手に入れたの。その代わりに美しい声と、歩く度にナイフで抉られるような苦痛を代償にね」
痛み。私達とは無縁の存在。
どんなものか体験したことはないが、良い物ではなさそうだ。
赤毛の彼ではないけど、出来ればこれからも体験したくない。
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