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「私達には痛い、が分からない」
「……そうだったわね。歩くのがとても大変なことになった、と思って頂戴」
『ゆりかご』から出たばかりの光景を想像する。
誰もが最初からきちんと歩けるわけではないことを考える。
「それで、それでね。王子様に助けたのは自分だと伝えようとするけど声が出ないから伝わらない。王子様は浜辺で介抱してくれた女性を命の恩人だと思ってしまうの」
「普通はやってもらったことを忘れないのが人間なのに……」
記憶能力が低すぎやしないか。
考察する力も足りてない。
嵐の中を普通の女性が泳いで助けられるわけがないのに。
「あなた達とはちょっと違ったのね。恩知らずなのよ、きっと」
博士は笑いをこらえているのを隠すように口元をおおう。
金色の髪が小刻みに揺れる。
いつもは凛としている彼女が笑うと途端に可愛らしくなる。
「そのうちに隣国のお姫様と縁談が持ち上がってね。人魚は王子の愛を得られなければ、海の泡となって消えてしまう。悲嘆に暮れる人魚の前に人魚の姉妹が現れて言うの」
これは随分と酷い話ではないか。そんな話が私達の都市のモチーフになっているのか……。
なんだかガッカリだ。海の都にはもっとクリーンなイメージがあったから余計に。
「『魔女と取引をしてきた。この短剣で王子を殺せば人魚に戻れる』って」
――殺す?
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