25人が本棚に入れています
本棚に追加
イヴが来て一ヶ月が経った。ある一区画で、イヴの講義が行われていた。
私達を集めてイヴは毎日、たくさんの事を話した。
「昔は宗教というものがあって、殆どの人は神様を信じていたの。神様は苦しみから人を救ってくれる最後の受け皿だった。私はキリスト教徒だったわ」
宗教の話をよく聞いた、私達は神という存在がいるのならば、それは『ゆりかご』を造った彼女だろうと結論づけた。
最近よく考える。人魚の話もそうだ。
苦しみとはなんなのだろう。生きていく上で本当に必要なのだろうか?
苦痛の代わりに得るものは、代償の割に少ない気がしてならない。
イヴは隠しているが、毎晩、電気を消した後に泣いている。
声をかけても大丈夫よ、起こしてごめんなさい、と言うばかりで一向に解決しない。
そんな時は決まってイヴが眠るまで隣にいてあげることしか出来ない。
イヴが『苦しんでいる』状況を見るとやはり、苦痛や悲しみはいらない気がする。
私達は傷ついても治るし、大昔のように争うこともなければ、自然災害が訪れる時には眠りに付くので、防衛本能も必要ない。
「喜怒哀楽、あなた達には怒と哀がないわね」
私達を前に、イヴはやはり悲しそうで、私はどうすれば彼女が喜んでくれるかを必死に考える。
きれいな花や貝殻、彼女の生まれた世界には無かった珍しい学術書などもプレゼントしてみた。
イヴは眉をハの字に下げて笑い、私を抱きしめて、『ありがとうね』というだけ。
最初のコメントを投稿しよう!