25人が本棚に入れています
本棚に追加
イヴと二人で話す時間は沢山あるのに、気になっていた人魚の話の続きが、なぜだか聞けなかった。
イヴも話さなかった。思う所があるのだろうか。
――それとも私との約束なんて忘れてしまったのか。
エラーを治療しないまま、私は一七五センチになり、明日で彼女と五年目を迎える。
「イヴ、明日は君がここに来た日だよ」
「そうね。五年目になるのかしら」
イヴは思いを馳せるように目を細める。
イヴが来てからの生活はとても刺激的で、楽しかった。
これからもそれが続けばいいと思う。
「お祝いをしよう、食べたい物とか欲しいものは何かある?」
「いつも通りでいいのに。アダムが優しいから今日まで生きて来ることが出来た、それだけでいいの」
「これからもずっと生きるだろう。何を言ってるんだい」
「そう、これからも、ずっと生きる……のね」
髪をかきあげながら、イヴが言う。
どうしてそんなに暗い表情をしているんだ。
彼女は時々、そうなる。それでも回数は初めに比べて大分減ったのだ。
死なない、と分かっていてもイヴの時代は死が当たり前だった。
やはり不安なのだろうか。
「ねえ、何か心配事があるなら……」
「大丈夫、ないわよ。明日はやっぱり豪華な食事がいいな」
頭を傾げながらイヴは子供のように笑う。もう私のほうが見下ろす形になっていた。
「分かったよ。君の好きなものを用意しておくね」
「ありがとう。ねえアダム」
パネルに指を滑らせはじめた私に向かってイヴが声を上げる。
「人魚姫はね、人間になりたかった、というのもあったけど、短い命でも死なない魂が欲しかったのよ」
「転生することができる魂が欲しかったの。永遠とは洗い流し、めぐること、と考えたのね」
私の指が止まる。あの時の話の続き。五年も前のことをなぜ。
最初のコメントを投稿しよう!