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けたたましく頭の中でアラートが鳴り響く。
まるで私がこれからやることを見抜き、責め立てて弾劾するかのように。
昔は神様が罪を決めていたらしい。
やがて訪れた法のある時代、罰を作ったのは人間だ。
今この瞬間に私が救いを求めて謝罪をすべき相手は誰なのだろう。
罪を洗い流す『ゆりかご』なのか、自身の存在すら認められなくなってしまった彼女なのか。
ここで私はふと思う。
罪悪感こそが人類史上最大の罰なのではないかと。
視界がぼやけて、足に力が入らなくなってきた。
今まで正常に動いていたのが嘘のように、いよいよ意識というものが私から離脱しようと暴れているのを頭の隅で認識する。
「私は私でいたいんだ。このままで在りたいんだ。イヴのことを、彼女への想いに苦痛が紛れていても丸ごと持っていたいんだ」
『ゆりかご』に戻れば痛みも苦痛も消えて、綺麗な記憶だけが残るだろう。
でも、それは、まやかしの幸せだ。
回廊を抜けて、『ゆりかご』がある広間のドアが完全に開く前に肩を無理やり押し入れる。
悪化する頭痛に立ち止まればそのまま動けなくなってしまいそうだった。
埋め込まれたチップと私の争い。手に入れた感情は、意識は、やはりエラー、ということらしい。
『ゆりかご』は部屋の中央で相変わらず静かに世界を反射して揺らめいていた。
彼女の体を柔らかな床に下ろすと、残った力を振り絞って虹色の『ゆりかご』に何度も何度も手を打ち付ける。
触れたことはなかったが、柔らかいと思っていた『ゆりかご』はひどく硬かった。
私達を包む、水の膜。
痛い。痛い。痛い。いたい。いたい。いたい。
それでも私達の体はとても、頑丈なのだ。大抵の物質は破壊できるぐらいに。
「どっちも頑丈に作り過ぎだろう」
私は激痛の最中、気づけば苦笑していた。
『ゆりかご』
ふと、今はこの中に再生中の仲間が何人いるのだろう、と途中で考える。
そして楽園にヒビが入る。
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