誰のために人魚は泳ぐのか

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 ドーム状になっているシェル壁の透過スイッチをオンにすれば、深緑の水草と、鮮やかなピンクや黄色、青や白のサンゴ礁と銀色に反射する魚達の群れ。  シェルの周りを取り囲むドームは太陽光を増幅させ、周りは深海とは思えない程の光が降り注いでいる。  探索用アンドロイドの人魚が1匹、こちらに気づき、手を振っている。  下半身の魚部分の、薄い水色に紫色のパールがかったウロコは、角度を変える度に、万華鏡のごとく違う表情を見せる。 「探索機が、どうして人魚なんだろうな」  こちらの言葉など意にも返さず。  人魚に手を振り返せば、クスクスと笑いながらくるりと回って、尾びれで海中に砂を巻き上げると、また周囲の群れへ戻っていく。 「よう。人魚が何か見つけたようなんだよ。知ってるか」  人魚たちをぼうっと見つめていると、いつの間にか隣に並んでいた背の高い赤毛の男が私に声をかける。  頭の中の、情報の共有を新しく更新すると、探索項目が光っていた。 「新しいシェルの素材かな?」 「いんや、あれは何だろうな。古いシェルターみたいなんだが俺達じゃあ近寄れない」 「珍しいね、シェルターはこの辺りにはもうないと思ってたけど」  視界に情報パネルを出すと探索項目を詳しく開く。 「海底の落盤……」 「古すぎて中に人がいる可能性は低いが一応探索続けるってさ。それはそうと早くでっかくなるといいな」   思わず肩をすくめる。  私の体はやはりまだ人から見ても小さいのか。 「まあそんなに長くかからないよ」 「そうだろうな。健康が一番だ。病気がある時代があったなんて想像ができないぜ」  男は豪快に笑いながら、私の頭を軽く何度か叩くと、またな、と言って大股で去っていった。  病気があった時代。痛みが存在していた時代。感情が磨かれていなかった時代。  確かに、そんなものは想像ができない。ないものは想像のしようがないから仕方ないのだが。
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