ヒストリック・ガールズ

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「あなたが本当に達美なら……」  不安はあるけど好奇心には勝てない。聴いてみることにした。 「生まれはどこ?」 『ここ』 「見たところ今はしていないみたいだけど、以前の仕事は?」 『日本のトップアイドル』 「やめた原因は?」  これには、相手は辛そうに目を伏せた。 『3カ月ぶりに、彼氏のタケ君。鷲矢 武志君をコンサートに招待したの。  そこで、感極まって手を握った。恋人つなぎ。  そしたら、何を思ったのか男がタケ君を殴った。  それで私はステージを飛び降りて――』 「言いにくいなら、言わなくていいです」  私はそう言って、会話を打ち切った。  自分にそっくりの人間が現れると、気持ち悪いというけど、そんなことはないらしい。  むしろ、自分で自分を追い詰めてるみたいで、2倍の罪悪感が募る。  私はアイドルを、大乱闘を起こしてクビになった。  タケ君を殴った男を、馬乗りになってボコボコにした。  度胸づけにやっていた格闘技が役に立った。  調べてみると、その男は以前にも補導されたことのある不良だった。  でも、「アイドルは恋愛禁止」とかの慣習のせいで、私の評判はガタ落ち。 『私は事件の後、保護観察を振り切って大きなコンサートに殴りこもうとしたの。  でも、会場に入る前に遠隔操作で電源を切られて、つかまっちゃった。  それ以来、芸能活動はやってない。  あなたは?』  私はそんなに逆らえなかったな。 「力づくで飛行機に乗せられて、ここへ帰された」  そして、現在に至る。 『それで、今あなたはどう思ってるの?』  ドラゴンメイド、厳しいな。  私が言う事は一つ。 「覚悟はしていたつもりだけど、いざクビになってみると寂しくなる事はある。  でも、推理力のない人は嫌いだ」  そして、2人で笑った。 『頭を抱えて』  ドラゴンメイドの警告に、素直に従う。  彼女はヘルメットをかぶり直す。  そして左手でオーバオックスにしがみつきながら、右手の形を大きく変えた。  指が、パラボラアンテナみたいに。  その右手に、青白い光が宿る。  高熱の、たしか、その呼び名はプラズマだ。  プラズマは突きあげられた手にしたがい、空に飛んで行く。
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