1989年の悔恨

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 涙ぐむほど嬉しかった、乳を吸う赤ん坊が愛おしくてたまらなかった。 望まれて、望んで産んだ最愛の息子を育てるのは、主婦となった彼女の最大の幸福となったのである。  その最大の幸福を芳子は突然失ってしまう、一昨年の激しい雨の日に。 息子の運転するオートバイが高速道路でスリップしたのだ。 運悪くガードレールの柱部分に頭を激突させて息子は即死する、本人以外の誰にも責任を問えない、100パーセントな自損事故だった。
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