1989年の悔恨

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 そこまで思いを巡らせ、法令(ほうれい)線がくっきり目立ち始めた口元で芳子(よしこ)はため息をつく。  待ち人はまだ来ない、自分で呼びつけておきながら。 およそ三十年間一度も会わなかった彼女から突然手紙をもらい、全く知らない土地まで二時間以上かけて電車を乗り継ぎ、指定されたこの店までやって来たのに。  あの子を失ってから一年がとうに過ぎ、夫が亡くなってから半年近くを過ぎた。 そうでもなかったら、彼女の呼び出しにはおそらく応じなかったに違いない。
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