雪夜の優越感

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 毎週火曜日の夕方4時。夫がラジオに出る。作家の鴇羽さんです。こんにちは。はい、こんにちは。よろしくお願いします。 「鴇羽さん。今夜は雪が降るそうですよ」 「こんな日はいっぱいやるのが一番です」 「また、そんなことおっしゃって。肝臓は大丈夫ですか?」 「それ言われると困っちゃうんですけど」 女性に人気の囁くような甘い声。会話が流れていく。ラジオに出るようになって夫の人気は上がっていた。部屋の片隅には整理しきれていないファンレターの山。 「最近、ビールに凝ってて」 「ほうビールですか。ドイツビールとか?」 「そう。世界のビール」 「日本とは違いますか」 「うん。だから好き。日本いい日本いいってうるさいでしょ。最近。海外のがいい場合だってたくさんあるのに」 「そんなこと言って知りませんよ。いくら女性に人気だからって」 「そんなことないですよ。飲んだくれのおっさんです」 「でも鴇羽さんが飲んだくれて潰れてるの誰も見たことないですよ。ねえ?」 「ふふ」 「さ、今日も始めましょう。デイリーニュースです」  私は立ち上がった。夫の甘い声がニュースを切っていく。
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