雪女の充血

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「うわあああああああああっ」 ただ大声で叫びながら 必死で雪道を走る男は、 それを振り返って 確かめる勇気はなかったが、 女の笑い声と 自分のものではない 雪を激しく踏みしめる足音が すぐ後ろでずっと聞こえているので、 女が自分を追ってきている、 そう確信しながら 自分の家へと続く道を真っ直ぐに駆け抜けた。 家に着いた男は 急いで玄関の戸を開け、 くぐり、 振り向きざま その勢いで戸を閉め、 素早く錠を掛けて そのまま戸口にもたれかかって 震えながら外の女の気配を探ったが、 声も足音も一切聞こえず 女は 風のように いなくなってしまったようだった。 だが、 戸を閉めるとき、 そのとき一瞬見えた、 黒い髪を振り乱し 血で染まった どす黒い歪んだ笑顔を 揺らしながら こっちに向かって走ってくる 全身真っ赤な女の姿と、 その後ろに続く 赤く染まった雪の道を、 男は死ぬまで忘れることはなかったという。
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