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【沼の入り口】
ベッドにもたれかかると、三つ編みをほどきウェーブがかった髪の毛に愛おしい人の指が絡まるのを感じる。
「起きました?ぐっすりでしたね」
振り返り、そう言って笑うと裸のままベッドで横になっている加藤さんがにっこりと微笑み返してくれた。
その顔に、胸がキュンと鳴る。
「どのくらい寝てた?」
「40分くらいかな?今、10時50分です」
「あぁ、もうそんな時間か」
そう言って加藤さんが起き上がる。思わず、私は眉を下げて悲しい顔を作ってしまう。
それを見て、彼の腕が薄いパーカーを着ている私の肩に絡みついた。
「何してたの?」
床に散らばった色画用紙とハサミを見て、加藤さんが言った。
ピンク、青の横長の楕円に、薄橙の縦長の楕円。それを上下に組み合わせ、「なーんだ?」と問いかけた。
「あぁ、きのこ!」
「ピンポン。ここに、顔を書いてもらって、傘の部分に家から持ってきてもらった丸いボタンとかポンポンとかボンドで付けるんです。これは、見本用」
左右の手に持った色画用紙を、交互に持ち上げた。
「なるほど、こういうのって、いつも家でやるの?」
私を後ろから抱き締めたまま言う。
「たまに。基本は園でやるようにしてるんですけど」
肩に絡まった腕の上から、自分の両手を重ねた。
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