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【再会】
―8ヵ月前―
「私、なんでこの仕事に就いたんだっけ……」
保育士、憧れていたその職業に就いて早3年。
ずっと同僚で、昨年度で寿退職をしたカスミの部屋で、明日から自分が受け持つクラスの子供たちの名簿を見ながら私はポツリと呟いた。
正直、3年間同じ保育園で働いてこられたのは、カスミが居てくれたことが大きい。
「もう、美沙ったら、そんなこと言わないの」
呆れたようにそう言うカスミ。
「だってさ、同じ年に保育園入って、同じ学年受け持ったことはないけど……、でも子供の成長見て喜んだりとか、壁にぶち当たってへこんでるときとか、いつもカスミが傍にいたんだもん。この三年間……」
「はは。確かに。主任がむかつくとか、クレームつけてくるお母さんたちの話で飲む酒も美味しかったね」
「そうだよう。そういうの、これから私、誰に言えばいいの?ねぇ見て?私が見てんの、名簿。カスミが今めくってるの、なに!?」
「あー……。ドレスのカタログ、です」
モスグリーンの絨毯の上で横座りをして、ガラステーブルの上に置かれたカラードレスのカタログをめくりながら、カスミがバツが悪そうに言う。
その言葉をうけ、私は今にも泣きだしそうな声をわざと上げる。
「もー、ずるいよ、ずるいー。私もさっさと結婚してこんな名簿なんかじゃなくてそれめくりたい!ねぇ、なんなの?この読めない漢字たちの羅列は!クイズ?クイズなの?」
人差し指を紙の上に滑らせる。指の下には【小坂 舞羽(ふわり)】の文字。
「確かに最近の名前は難易度高いね。でもさーやりがいある仕事じゃん。あたし、辞めたのは心残りだよ。受け持ったクラスの子が卒園するの、見届けたかったもん。せめてね、彼の転勤さえなければ園に残れたんだけど」
口を尖らせる私に、カスミが続けて言う。
「美沙、明日から三歳児クラスでしょ?超かわいいじゃん三歳児。あたし、超好きだわ」
「子供はかわいいんだけどねー……。だよねぇ、三歳児、かわいいよねぇ……。思えばこの子たちって、私たちが保育士になりたての時は0歳だったんだよね。0歳から入ってる子、同期じゃん」
以前から園に居る子。今年から入園する子。珍しい漢字に当てたひらがなを指でなぞりながら、20人以上居る子供たちとの明日からの生活を思い浮かべた。
まだオムツが取れていない子供も居るだろうから、明日からはしばらく大変な日が続くかもしれない。
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