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 暗い部屋の中、小さな画面の中だけが光を放つ。  もういい加減こんなことやめたい。そう思っているのに私はインスタグラムのそのページを見てしまうのをやめることができない。  【yuu.ka.86】ただただ幸せそうな家族の日常が、区切られたマス目ごと、四角い画面いっぱいに映し出される。  ソファにもたれかかりながら、昨日まではなかった左上の写真を、私はタップする。  一枚の写真。無垢材だと思われるテーブルの上にのったスポーツドリンクと冷却ジェルシート、そして5種類のゼリーと2種類のプリン。  〈帰宅後なんかダルいなぁと思ってたら熱。久しぶりの熱、しんど。にしても旦那さん。早く帰宅してくれたのはありがたいけど、どれがいいかわかんなかったからってこんなに食べれません笑〉  コメント欄につく〈旦那さん、優しい♡〉〈愛だね、お大事に!〉の文字。  小さな画面に目を落とし、私は唇を噛み締め、一人ごちた。 「何が、愛よ……」  胸のあたりが、ムカムカする。  その瞬間、届いたメッセージが通知として、インスタグラムの画面にかぶさった。  〈昨日は急に行けなくなってごめんね。クライアントからの呼び出しで、どうしても俺が対応しなくちゃいけなくて。また埋め合わせさせて〉 ……嘘つき。  仕事なんて、嘘。熱がある奥さんのために自宅に帰っただけのくせに。  嘘つき。嘘つき。嘘つき。  嘘つきって、分かってるのに。    離れられないのは、あの場所であなたと再会したことを、運命だと信じているから。       
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