22人が本棚に入れています
本棚に追加
1、雪ねこの夜
あれは静かな夜のことだった。
小さなこんぺいとうのようなぼたん雪が、外灯に照らされて、悠々と地上に舞い降りる。
幻想的なその光景を、暖房のきいたリビングで、ぼくは窓枠にしがみついて眺めていた。
「雪ねこがまぎれていそうな降り方だな」
隣にいた父が言った。
「雪ねこ?」
思わず見上げてたずねるぼくに、
「そう。雪ねこ」
ひみつめかして、父が低く囁き返す。
「米粒ほど小さくて、真っ白なねこさ。雪のフリをして降ってくるんだ」
「僕も雪ねこ、つかまえたい!」
「ははは。それはどうかなぁ。雪ねこはすばしっこいんだ。子供につかまるほど鈍臭くないさ」
父が快活に笑い飛ばした。
「それに雪ねこは、つかまえると、すぐに溶けるそうだ。だから、雪ねこの姿を見た者は誰もいない」
「えーっ、じゃあ、つかまえたかどうかも分からないじゃん!」
最初のコメントを投稿しよう!