7人が本棚に入れています
本棚に追加
問いかけることもできない私は、なら、と考えを変える。
「ねえ。今日はめいっぱい、楽しもうね」
少し驚く彼に、私は手を引いて、足を弾ませる。
――そう。せめて、夢を見るなら。
――最後まで楽しい夢を、見ていたいものでしょ?
それから私達は、いつも以上と想えるくらい、楽しい時間をすごした。
「よかったの? 見慣れた場所で」
「うん。だからこそ、よかったの」
歩き慣れた街並みに、通い慣れた商店街。
少し離れた街へ出て、お気に入りの店でいつもの食事。
願掛けをした神社に挨拶をして、ウィンドウショッピング。
気になった喫茶店でゆっくりしたら、夕食も同じようにフィーリング。
その全てが、まるで付き合い始めた頃のように、弾んで心地よいのに。
(こんなにも、好きなのに)
――彼の頭上の数値は、赤の『1』のまま、変わることはなかった。
最初のコメントを投稿しよう!