数字が読めない日

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(もう、次は、立ち直れないかも)  せめて、理由を聞こう。  別れる理由を。  優しい彼なら、それくらいのわがままを言っても、聞いてくれるだろう。  ぐっと拳を握りしめ、彼の口が開くのを、待った。 「言って」  ――ゆっくり、彼の声が、部屋に響いた。 「結婚してほしい。俺と」 「うん、わかってる。でも、せめて……」  ふるえる声と涙で、彼の別れ話を、必死で受け止めようと――。 「……ん?」  ――いや、ちょっと待って。 「け、結婚?」  驚く私の眼の前で、彼は小さな手元の箱を、ゆっくりと開けた。  数字しか見てなくて、見落としてた、その黒い箱を。 「昨日、言えばよかったのかもしれないけれど。君がどこか、不安そうで、心配だったから」  開かれたその箱には、指輪が入っていた。  彼との今後をつなぐ、銀色の指輪が。 「でも、やっぱり、転勤になる前に言わなきゃって想ったんだ。……これからも君と、過ごしていきたいから」  まっすぐな彼の瞳は、嘘を言っているように見えない。  ……でも、頭上の数字は、やっぱり変わらず『0』のままだ。 「えっ、でも、どうして……?」  不安な声を出す私に、彼も、同じ気持ちになったんだろう。 「……嫌、か?」 「嫌なわけないじゃない!」  落ち込む彼へ、瞬時に切り返す。  でも、頭の中は大パニックのまま。
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