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しんしん。天から落ちる結晶体に掛かる擬態に、こんな音が宛てられているのはなぜだろう。声に出してみると、空間にぽつりと現れそのまま重力と共に収束する控えめな様子が目に浮かぶ。寒さが身に染みること、大地に静かに沈んでいく様子から、「しん」という音を連続させるオノマトペが出来たのだろうと、ひとり納得する思いだ。窓越しに傾きかけた陽と薄っすらと白んできた景色が窺えて、近頃忘れられがちだった冬が寝ぼけた頭を揺り動かし、せっせと駆け抜けようとするような、この年最後の彼の一仕事のように思えた。
その日Sくんは気だるげで、いつもの席に座ると広い背中を少し丸めて、首をキリンのように器用に折り、静かに咳をした。風邪を引いたのだろうか。この位置からでは背中と旋毛くらいしか見ることができず、顔色や仕草などはよく分からない。誰か親しい人間がやって来るまでやり過ごそうと決めていたわたしは、手元の文庫に目を落とす振りをしつつ、こっそりと彼の方に視線を送るが、わたしたちの座る位置はさして近いわけでもなかったから、ぼんやりと彼の輪郭のようなものを確認できただけで、自分の行為の無意味さがよくよく分かった。再びページに目を向けると、離れた位置から、こんこんと控え目に渇いた咳が響くのが聞こえた。しんしん。こんこん。彼の吐息も、雪の結晶に紛れられそうだった。
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