天を仰ぐひと

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 代わりに書いてくれというならばわたしだって断りたくなるが、そのくらいならばかわいいものだ。わたしはSくんのつむじを眺めた。暖房の風が当たるらしい、微かにそよいでいる。彼のつむじは最高にかわいい。  周りは静かにペンを走らせているが、たまに寝ている人や、知り合いに提出を託して退出していく人も散見され、誰かが動くたびに先生の視線が彼らを追っていった。    外に出た頃にはあたりもすっかり暗くなっており、図書館周りを除いては授業棟も暗く明かりもまばらで、不気味なほどに静かだった。資料を探すのに手間取って、結局いくつも借りてきたせいか荷物も重たい。掻かれた跡の残る図書館前の外階段を転ばぬようにと慎重に下り、バス停のある坂道へと向かった。空気が澄んでいる。寒気を覚える。空はぼんやりとした靄がかかったような色合いで、ひょっとするとまた夜にかけて降るのかもしれない。傘を引きずりながらバス停にたどり着くが、誰一人立っていない。時刻表の上の小さな明かりがちかちかと灯っている。ひょっとすると、行ってしまったばかりなのかもしれない、もしくは遅延しているかも……。時計を見ると、昼を抜かしてしまったこともあって、途端に空腹を覚えた。  時刻表通りだとすると、次のバスが来るのは二十分後らしい。どうしようかと一瞬間悩んだが、ひんやりと冷え切った足先がここで立ち止まるなと訴えだしたので、それはそうだと従うことにした。  わたしはとにかく無心になって、バス通りを歩いた。足元を守るブーツの側面にはしゃりしゃりとした雪が纏わりつき、誰かが踏み荒らした雪面はぐちゃぐちゃになってきらきらと輝いていた。左手に見えるサークル棟には、たくさんの明かりと賑やかな声が溢れていて、あすこはどんな日でも不変なのだなと考えると妙だ。友人もあの建物のどこかにもしかしたらいるのかもしれない。進行方向の逆、山の上のキャンパス方面からは、時折乗客を運ぶタクシーがわたしを追い抜いていった。
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