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「ハァ……」
気ばかり焦るがどうすることもできず、ひとまずは疲れた体を休めようと、智仁は公園のベンチに腰を下ろした。日も傾いてきた夕暮れの公園に他に人影はない。
「姉さん……どこいっちまったんだよ……」
智仁は天を仰いだ。彼が思いつく限りの手掛かりは全て辿り、そして徒労に終わっていた。
疲れ果てた智仁はふと、姉の顔を思い出した。自分より一回り背の小さい姉は、智仁へ怒り顔を向けている。
『こらトモ! あんた帰ってからずっとゲームばっかり、少しくらい勉強しなよ!』
うっせーな、と智仁は答えた。自分は姉とは違い勉強したところで成績は伸びないし、伸びたとしても姉以下であることには変わりないんだ、そんな卑屈な思いのこもった返事だった。
そしてそれが、姉との最後の会話になった。
このまま二度と会えないのかもしれない。そう思うとぞっとする。
いてもたってもいられず、智仁は立ち上がった。まだ日没まで時間はある、一度行った場所にもまた行ってみよう、何か手掛かりがあるかもしれない……
その時だった。
なにげなく智仁の視界に飛び込んできたのは、公園を急ぎ足で通り抜ける中年の男。
身なりの悪いその男はコンビニのビニール袋を提げて、どこかそそくさと走っていく。
その姿を見て思い出した。姉が行方をくらます数日前、家のそばにこの男がうろついていた。その時はなんとも思わず、今の今まで忘れていた記憶。だが一たび思い出した時、智仁はその男が、学校に行くべく家を出る自分……その前にいた、姉をじっと見つめていたことに気付いた。
杞憂かもしれない。疑心暗鬼になっているだけかもしれない。
しかし、胸騒ぎがする。
智仁はひそかに、その男の後をつけ始めた。
そして彼は、その存在と邂逅する。
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