16人が本棚に入れています
本棚に追加
「な、なんだお前! ここは俺の場所だぞ、出てけ!」
狼狽した様子で男がのたまう。その身勝手な言葉に、智仁は怒りを爆発させた。
「うるせえっ!」
我を忘れて男を突き飛ばす。ただでさえ動揺していた男はあっさりとコンテナに転がった。金属の衝突音が響く。
すぐに智仁は麗のそばに屈みこみ声をかける。だが反応がない、極度の衰弱状態のようだった。
しかし智仁とて冷静ではなく、どうすればいいのかわからなかった。とにかく『姉を助けねば』という思いがあり、その場はそれに従った。
「姉さん、今助けるからな!」
力なく横たわる姉の両脇に手を差し込み、引きずるようにしてだったがコンテナから救出した。コンテナは外からしか鍵がかからないようになっている、それで監禁していたのだろう。
麗の全身がコンテナから出たその時、コンテナの中の男が起き上がった。後で知ったことだがこの男はホームレスで、秀才として有名だった麗に目を付け、半ば突発的にさらったらしかった。
「てめえッ!」
男が智仁に襲い掛かる。しまった、すぐにコンテナを閉めておけば、と智仁が後悔する間もなく、体格的に勝る男に智仁は組み敷かれてしまった。
「ふざけんなよ、邪魔しやがって……! てめえなんか……!」
半ばヤケになった男は躊躇なく智仁の首に手をかけて、力の限り握りしめ始めた。智仁は呼吸ができず、男の手を引き剥がそうともがいたが、完全に押し倒されてどうしようもなかった。次第に息苦しさが思考を奪い、智仁は体温が下がっていくような感覚を覚えた。
だがその時。
智仁は視界の端で、衰弱していたはずの姉が立ち上がっているのを見た。
「……ア……ア……」
しかし様子がおかしい。だらりと手を垂らし、まるでゾンビのようにうめき声のような音を喉から漏らしている。そして次の瞬間。
「おごろろっろろっ」
その口から、膨大な量の触手が飛び出した。
「へ、あ、ぐごっ!?」
触手が男の口の中へ飛び込む。たまらず男は智仁から手を放して苦しみに悶え始める。
だがそれとほとんど同時に、智仁の口にも触手は飛び込んできた。
「ごぼっ……!? がごっ」
『食われる』感触が全身に満ちる中、次第に智仁の意識は薄れていく。彼が最後に見たのは、『中身』が抜けぺらぺらの皮となって地面に広がる、姉の姿だった。
最初のコメントを投稿しよう!