5話 変質

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「な、なんだお前! ここは俺の場所だぞ、出てけ!」  狼狽した様子で男がのたまう。その身勝手な言葉に、智仁は怒りを爆発させた。 「うるせえっ!」  我を忘れて男を突き飛ばす。ただでさえ動揺していた男はあっさりとコンテナに転がった。金属の衝突音が響く。  すぐに智仁は麗のそばに屈みこみ声をかける。だが反応がない、極度の衰弱状態のようだった。  しかし智仁とて冷静ではなく、どうすればいいのかわからなかった。とにかく『姉を助けねば』という思いがあり、その場はそれに従った。 「姉さん、今助けるからな!」  力なく横たわる姉の両脇に手を差し込み、引きずるようにしてだったがコンテナから救出した。コンテナは外からしか鍵がかからないようになっている、それで監禁していたのだろう。  麗の全身がコンテナから出たその時、コンテナの中の男が起き上がった。後で知ったことだがこの男はホームレスで、秀才として有名だった麗に目を付け、半ば突発的にさらったらしかった。 「てめえッ!」  男が智仁に襲い掛かる。しまった、すぐにコンテナを閉めておけば、と智仁が後悔する間もなく、体格的に勝る男に智仁は組み敷かれてしまった。 「ふざけんなよ、邪魔しやがって……! てめえなんか……!」  半ばヤケになった男は躊躇なく智仁の首に手をかけて、力の限り握りしめ始めた。智仁は呼吸ができず、男の手を引き剥がそうともがいたが、完全に押し倒されてどうしようもなかった。次第に息苦しさが思考を奪い、智仁は体温が下がっていくような感覚を覚えた。  だがその時。  智仁は視界の端で、衰弱していたはずの姉が立ち上がっているのを見た。 「……ア……ア……」  しかし様子がおかしい。だらりと手を垂らし、まるでゾンビのようにうめき声のような音を喉から漏らしている。そして次の瞬間。 「おごろろっろろっ」  その口から、膨大な量の触手が飛び出した。 「へ、あ、ぐごっ!?」  触手が男の口の中へ飛び込む。たまらず男は智仁から手を放して苦しみに悶え始める。  だがそれとほとんど同時に、智仁の口にも触手は飛び込んできた。 「ごぼっ……!? がごっ」  『食われる』感触が全身に満ちる中、次第に智仁の意識は薄れていく。彼が最後に見たのは、『中身』が抜けぺらぺらの皮となって地面に広がる、姉の姿だった。
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