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倉庫は校舎の裏手にある。どこかじめっとした場所で、倉庫に用がある時以外はまったく誰も通りかからない。
「よいしょ、っと……」
つばさは職員室で借りてきた鍵を使って、倉庫の思い引き戸を開けた。真っ暗な倉庫に光の切り込みが入り、しけった臭いが立ち込めると共に大量の物品の数々が目に入る。
「電気は入って右のとこにあるよ、足元気を付けて」
「はーい」
同行した西という2年生に言われた通り右の壁を探して電灯のスイッチを入れる。何回かの点滅の後、倉庫は蛍光灯で照らされた。
「あっ、あれがボールですね。結構奥の方にあるなあ……」
テニスボールが積み込まれたカゴを倉庫の奥に見つけ、足の踏み場を探しながら、つばさは倉庫の中へと進んでいった。あとはそのカゴを西と手分けして持ちテニスコートに帰るだけ……そのはずだった。
ガコン。つばさの背後で、重い音が響く。
見れば西が倉庫の扉を閉めた後だった。
突然の音に驚いて振り向いたつばさだったが、西が扉を閉めたとわかりその時は深く考えなかった。きっと倉庫を使う時は安全か何かの為に戸を閉めるというルールがあるのだろう、そんな具合に考えて。
どうせすぐ開けるのにな、と思いつつ、つばさはまた西に背を向けて、ボールの入ったカゴへと向かっていく。
「……ごぽっ」
西が何か言ったような気がした。水音みたいなものも聞こえたが、つばさはよく聞こえなかったし、ボールのカゴのすぐそばまで来ていたのであまり気にしなかった。
「よいしょ……」
腰を屈めて、カゴを持ち上げようと手を伸ばした。蛍光灯で出来たつばさの影がカゴにかかる。
つばさの影の裏に、異形の影が覆いかぶさっていた。
「ん?」
つばさも影に気付き、なんだろうと振り返る。そして絶句し、硬直した。
彼女が見たのは、倉庫の天井を覆いつくさんばかりの血の色。うねうねとうごめき、どくどくと脈動し、生きている。触手、としか言いようのない、不気味な何か。
そしてそれは倉庫の入り口を塞ぐように立ち、虚ろな目をした西の口から伸びて、膨らんでいた。
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