Lady Witch-雪の降る夜に-

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 これは僕が子供の頃に、初めて訪れた町セイラムで起きた話だ。それから、Lady Witch(レディウィッチ)との出会いの話でもある。  Lady Witch……彼女の容姿というか、彼女の瞳だ。そうだ、憂いのようなものを湛えた彼女の瞳が、とても綺麗だったのを、今でも僕は覚えている。忘れることなどできはしないのだ。  時は19世紀末期、アメリカ合衆国。マサチューセッツ州の大都市圏ボストンから、馬車で北へひた走ると、古くから貿易港として栄えた海沿いの小さな町が見えてきた。この時代、世界は変革の時を迎えようとしていた。しかし、都会から外れた場所では、古き良き時代を思わせる風景や人々の姿があった。ここ、セイラムの町もそうだった。町の入り口には、とんがり帽子を被って箒に乗った魔女の看板が掲げられている。  魔女の町セイラム。  魔女とは言っても、実際に魔術を使う訳ではない。今は魔術よりも科学の時代だ。魔術と呼ばれる現象のほとんどは、科学で解明可能なのだから。  僕がセイラムに訪れた理由は、祖母に会うためだった。僕の祖母であるドロシーお祖母ちゃんの体調が優れないらしく、忙しい両親に代わって僕がドロシーお祖母ちゃんのお見舞いに行くことになった。何度かドロシーお祖母ちゃんは、僕と両親の家に来てくれたから、僕の記憶には優しいドロシーお祖母ちゃんとの思い出が残っている。  だけど、セイラムを訪れたのは今日が初めてだ。
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