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1 止まった時間
「髪伸ばしたら?」
そう言って笑うあいつに、わたしはフンっとそっぽを向いた。
「やだよ。走る時邪魔だもん」
「結べばいいじゃん」
「結べるようになるまでが邪魔なの。何? 髪短いのになんか文句あんの?」
どうせまた男みたいだとか言うんだろうな。
そう思ってムッと頬を膨らませたわたしにあいつが言った言葉は。
「文句はないよ。ただ、武市ってキレイだから、髪伸ばしてもすごい似合うんだろうなって思って」
そんな、予想外の言葉だった。
「うん、ぜったい似合うな。伸ばせよ、髪」
「――な! なんであんたにそんなこと口出しされなきゃいけないのっ」
焦って、ついけんか腰になってしまったわたしを小さく笑って、
あいつは言った。
「なんでって、オレ、武市が好きだから」
それは15歳の秋のこと。
わたしの時間は、この時から止まったままだ。
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