1  止まった時間

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 透がスタートを切った。  踏み切ったその体がフワリと浮き、空中で綺麗な弧を描く。  体はバーに触れることなくマットに着地した。 「――きれいねぇ」  ほうっとため息を漏らす果歩に、わたしも思わず頷いた。  透の高跳びのフォームはきれいだ。見惚れてしまうほど。 「あ、手! ほら、鈴!」  果歩が慌てたようにわたしを肘でつついて来た。  マットから降りた透が、こちらに気付いて手を振って来たのだ。 「鈴ってば!」  果歩にせっつかれて、仕方なく手を振り返した。  透の顔に満面の笑みが浮かぶのが、遠目にもわかった。     「ほら、ね。透くん、ぜったい鈴のこと好きじゃん」 「違うよ。透って、誰にでもあんな感じじゃない」  わたしは苦笑した。  透は人当たりがよくて、誰にでも優しい。  彼が誰かに冷たくしているのなんて見たことがなかった。  だから、わたしだけが特別なんかじゃない。 「違うのかなぁ。そうだと思うけどな」  果歩はそう言って、視線を前方に戻した。  わたしは密かにため息をつく。  ごめんね果歩。  今はまだ、そんなこと考えたくないんだ……。
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