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透がスタートを切った。
踏み切ったその体がフワリと浮き、空中で綺麗な弧を描く。
体はバーに触れることなくマットに着地した。
「――きれいねぇ」
ほうっとため息を漏らす果歩に、わたしも思わず頷いた。
透の高跳びのフォームはきれいだ。見惚れてしまうほど。
「あ、手! ほら、鈴!」
果歩が慌てたようにわたしを肘でつついて来た。
マットから降りた透が、こちらに気付いて手を振って来たのだ。
「鈴ってば!」
果歩にせっつかれて、仕方なく手を振り返した。
透の顔に満面の笑みが浮かぶのが、遠目にもわかった。
「ほら、ね。透くん、ぜったい鈴のこと好きじゃん」
「違うよ。透って、誰にでもあんな感じじゃない」
わたしは苦笑した。
透は人当たりがよくて、誰にでも優しい。
彼が誰かに冷たくしているのなんて見たことがなかった。
だから、わたしだけが特別なんかじゃない。
「違うのかなぁ。そうだと思うけどな」
果歩はそう言って、視線を前方に戻した。
わたしは密かにため息をつく。
ごめんね果歩。
今はまだ、そんなこと考えたくないんだ……。
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