『怪獣メタモルフォシス』

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 とは言え、三日間の全日程に入れば約五万円稼げる。実家暮らしなので、月に十万も稼げば十分に遊んで暮らせる。別に遊んで暮らしたい訳でもなかったが、働いて暮らすのはもっと嫌だった。何よりやりたいことがない。やりたいこともないのに、何故「生きる為」だのという理不尽な理由で誰かの指図に甘んじねばならないのか。俺にはそれがどうしても納得できなかった。生きる理由などそもそもないのだし、だったら、そんな風に誰かの指図に耐えながら生きるくらいなら死んだ方がマシだと俺は本気で思っていた。それでも、じゃあ死にますと言って死ねてしまえる程死にたい何かがある訳でもなかった。というか、死にたくなんかない、普通に。俺の「死にたさ」は別にそれ自体自律していて、主体的に駆動している訳じゃない。それは飽くまでも生の不毛さとの対比において、相対的かつ暫定的に取られる態度に過ぎず、死ななくて良いなら死なない方が良いに決まっているし、もっと言えば生まれずに済むのならその方が良いに決まっている。だけど、生まれてしまったから、生きなくてはいけないし、生きなくてはいけない以上働かねばならない。俺は不幸にも億万長者の息子としてこの世に生を享けた訳ではないのだから。 「キミ、高木クンだっけ? いやー、どうしたのその恰好? パーカー? え、スーツは?」  代理店の下請けの下らない仕事の説明が一通り終わった時、今日の責任者として顔を出した男は開口一番、俺にそう言った。 「いや、ありますけど。Yシャツは持って来てないです。要るんですか」 「要るんですか、じゃないだろオイ。え、それ聞かないと分からない? もしかしてキミ馬鹿なのかな? 今まで何を学んで生きて来たの? 社会人経験ある? なに、学生? ここは幼稚園じゃないんだからさあ、分かろうよそれくらい。考えよう? 自分の頭で」 「自分の頭で考えたんですけど、今日は上にジャケット羽織るから上は何でも良い、それより厚着して来いって沼田さん言うんで、それに従いました」
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