1.テレフォン

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「想像させるのよ、相手の頭に美しいアタシの姿を」 目も鼻も唇も服装も全部が厚ぼったい朝倉さんはお世辞にもキレイとは言い難いのだが、声だけは別格に綺麗なのだ。 職場でもこの女の声だけはよく通り、その昔のど自慢に出場して地元ではちょっとした有名人なのだと、カラオケに行くときは前口上のように語ってくれる。 モノマネも得意で45点の松浦亜弥と85点の武田鉄矢を好んで披露してくれる。 「いい女ってのは骨格が綺麗なの、ほら女優の誰だっけ? 10チャンのサスペンスとか出てる、あの人ね、テレビでレントゲン出したことあるじゃない? アタシね、それ見てビックリしちゃったんだから、アタシとホントそっくりなの!」 情報があやふやな上、なんのこっちゃ分からない。 骨がそっくりとは何ごとだろうか? 骨格上は均整がとれているのかもしれない、ド○えもんだって均整がとれているのだ。 「目閉じてみて、いいから。ねっ、 あの、こんにちは、ミナミです」 唐突に私の横で何かが始まった。 「アタシに電話してくれるの初めて? アタシも緊張しちゃってて」 やはり声はいい。 目をつぶれば美人を想像してしまう。それも飛び切りエロイ女性を。 目蓋に映像が投影されていく。 女は90年代に流行ったニットのワンピースに茶色のセミロングという風体だった。 口紅は薄く、少女のように笑う女性だ。 「ねぇ、アタシ今とってもさびしいの」 悩ましい表情でこちらをのぞき込む彼女の姿を見たくなり私は目を少し開いた。 魔法は解けた。 眉間に深いシワの刻まれたゴリラ顔の女が身をよじらせ声を出している。 「あなたのってすごく硬そう」 「あなたの見せて、ねぇ、私もするから」 固くなったマグロの血合いをつまみながら公演が終わるのを待った。 泡の抜けたビールは私の気力をますます削いでいく。 「どう?」 額に汗を浮かべながら朝倉さんはやりきった顔をしていた。 ささやかながら拍手を送った ポスポスと音がするほど私の手は乾ききっていた。 しかし、その音は遠くの方から力強い拍手へと変化していった。 「素晴らしい!」 山高帽にピンクの眼鏡をつけた男がコチラへ近寄ってくる。 男はねずみ男をちょっと汚くしたような風体でスギヤマと名乗った。
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