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あの日。辻堂のキャンパスから鎌倉まで帰る道のりは、果てしなく遠かった。
いつもは電車で1時間弱。あの日は、バスしか動いていなかった。渋滞で、信号もすべて消えた道をじりじりと抜け、定時に出たはずが鎌倉駅の近くまでたどりついたのは22時に迫るころだった。
いつものコンビニが開いていた。みんな必死の形相で、カップラーメンを買い漁っていた。あたしは、安い赤ワインのボトルを一本だけ買った。
「ああ、お疲れ様でしたね」と、見慣れた眼鏡でぽっちゃりとした店員がにっこりと笑った。
アキコちゃんは、非常時でもお酒が優先なんだね。
その話をしたとき、ヒロシはお腹を抱えて笑った。2011年。東京の大きな会社に勤めていたはずのヒロシは、すべてを投げ出して鎌倉に越してきてた。年上の奥さんも、小学5年生の可愛い娘も。ヒロシは、ツイッターでフォローし合っただけの人だった。おじさんのくせに、アカウントはイチゴのイラストだった。
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