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思わず、盗撮カメラがないかと見まわしたが、よくわからない。
「りょーかい!」
雅は、僕の頬にもう一度キスをして、笑った。本当に嬉しそうな顔で、僕まで頬が緩んでしまった。
その後、僕たちは授業に出た。あまり頭に入ってこないけれど、ノートは何とかとることは出来た。
考えなきゃいけないのは、これからのことだ。僕が雅を好きだった時とは違って、二人は相愛なのだ。相愛、共に好きだって事だ……。
「彩、耳赤いけど、熱まだあるのか?」
彰が心配してくれたけれど、熱はない。
「ううん、大丈夫だ」
世の中の恋をしている人達は、どうやって普通に暮らしているんだろうか。もう、僕の頭の中は、これからのことを考えて困ったり、時折襲う、夜中の記憶でグルグル回っているというのに。
「そう?」
「あっ、あのさ、彰が会長のこと、好きだって気付いた時、どんな気持ちだった?」
思い切って、移動時間に二人だったから訊ねてみた。
「好きだって……、気付いた時」
彰は、僕の顔を見つめてから、ポツリと小さな声で「悲しかった」と呟いた。
「え、何故?」
「だって、おれ、優一朗には会えないって思ってたから」
二人は同じ中学だったと聞いている。その時は、恋人ではなかったのだろうか。それにしては、会長のあの執着は異常だ。
「会えてうれしかった?」
理由は、聞いてはいけないような気がした。
「うれしかった……のかな? 優一朗には、罪悪感ばっかり感じていて、それどころじゃなかったし。優一朗が許してくれても、おれはやっぱりずっと後悔ばっかりしてる」
彰の真剣な声に、僕は思わず聞いてしまった。
「会長のこと、好きじゃないの?」
「それなら、良かったのにな。おれが好きにならないと、優一朗は生きていけないんだってさ」
傲慢にも聞こえる台詞なのに、彰は本当に辛そうだった。二人は、相思相愛だと疑ったことはなかったから、僕は驚いていた。
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