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「彰は……」
「もう、諦めたんだ……。どうしたって、優一朗はおれを諦めないってわかってしまったから、あがくのは止めた」
「好きじゃないの?」
「好き、だ。でもさ、優一朗には、凄い輝かしい未来っていうのがさ、レールの上に一杯あって。おれを選ばなければ、全部手に入るんだ。全部。それなのにさ、いらないって言うんだ。そんなの、おれが許せないっていうのに、優一朗は、おれがいたらいいって」
のろけにしか聞こえない言葉なのに、彰はまるで告解しているようだった。多分、亘にだって言えないのだ。誰にも言えなくて、苦しい言葉を僕に吐き出してくれた。
「おれさ、間違えて、優一朗を苦しめた。優一朗のためだって思って、必死に逃げようとしたんだ。でも、結局、逃げることも出来なかった。だから、彩にはさ、間違えて欲しくなくて……。雅のこと、好きなんだろ?」
彰は、自分が間違えてしまった過去を、僕たちに踏ませないようにと、言葉を振り絞ってくれたのだろう。
きっとお祖母さんのことがなかったら、踏み出すことも、受け入れることも僕には出来なかった。
「うん。好きだ……。何でだろう、ずっと好きだった」
「生まれてさ、一番最初に出会ったのが、二人の運命だったんだろ」
「運命か……。それって、いいな――。だって、運命なら、仕方がないって思えるから」
「フフッ、雅のやつ、仕方ないってなんだよって言いそうだな」
「言うと思う――」
笑っている彰の顔は、吹っ切れていて、もう悩んでいたのは過去なのだとわかった。
僕たちが、幸せになるためには、きっと沢山の辛いことがある。でも、諦めるのは止めた。僕が僕でいるために、雅は僕の隣に立っていなければいけないのだと、わかったから。
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