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中学から僕たちは寮生の学校に入った。人よりも牛とか馬とかの多い場所で、自然がたっぷりというのが謳い文句だった。寮に入るように言われて、僕の相棒が選んだのが、並んだ入学案内書の中で一番家に遠い場所だった。
僕の相棒は、僕とそっくり同じ容姿の所謂双子というやつで――。
「あーや、何やってるの?」
集中してたのだろう双子の兄、彩は驚いた顔で鏡を放りだした。
「あっぶなっ、あーや、ほら鏡みたいならこれみたらいいよ」
僕の顔を近づけると、彩はフイとそっぽを向いた。
「見てたんなら、一言いえよ」
多分、耳の先が赤くなってるはずだ。照れると彩は耳の上の方だけ何故か赤くなるのだ。僕もそうかもしれないけど、見たことはない。
確かに見られて嬉しい格好ではないのだろう。
「あーや、キスの練習? 次は主役だもんね」
「キスなんかしないけど、ほら、真似事はするじゃないか。どんな顔になるんだろうって思ったんだよ。変な顔してて、笑われたら嫌じゃないか」
「芹沢先輩、絶対本当にしようっていうと思うよ」
「しないから!」
彩が『ロミオとジュリエット』のジュリエットに選ばれたのは昨日のことだった。
男ばかりのこの学校で演劇部に入ったのは間違いだったんじゃないかと思わないわけでもないけれど、彩は女役ばかりだった。同じ顔の僕には男役がくるのに。何故かわからないけれど。
「でも無理やりしてきたらどうする?」
「股間蹴り上げてやる」
彩はするだろう。そして、僕も殴るだろう。まぁ、一度芹沢先輩をボコボコにしたことがあるからないとは思うけれど、一応釘は刺しとくべきだろう。
「でもあーや、顔は上げないと・・・・・・」
側に寄って、抱きよせると彩は少しだけ手で拒んだ。
「僕達、身長一緒じゃないか」
そこにあった運動用の踏み台に乗ると、溜息を吐かれた。
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