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「彩、養ってもらっている身で偉そうだけど、僕は家族が許さないからって彩を諦めたりしないから。だから、まだ言わない」
まだ、二人で生きていくといっても、親がいなければ成り立たないことはわかっているから、彩がそう言ってくれただけで僕は満足しているんだ。
「そっか」
ホッとしたような彩の顔。やっぱり僕が嫉妬深いのが駄目なんだろうな。結局学校でも僕は彩が嫌がるのがわかっていながら、生徒会のメンバーには言ってしまった。いや、結局のところ、『彩は僕のものだって』彰に言いたかったのだ。馬鹿だってわかっている。彰には会長がいるし、彩だって彰のことは友達だって言ってるのに。こんなに仲が良くなった友達は今までいないから、僕は不安なのだ。
家族は、別に彩が嫌だって言うなら、カミングアウトするつもりはないのだけど、こうやって僕に選択肢をくれる彩の寛大さに、最近気付いた。
「今度、紹介してもいいか?」
恥ずかしそうな親父の顔は、まるで初めて彼女を家に呼ぶ高校生のようだった。
「どんな人?」
「可愛いの? 綺麗な人?」
「えー、普通だよ、普通。でもまだ二十五歳」
「犯罪じゃねーの?」
「成人してるだろうが」
「うわぁ、兄貴達と変わんないじゃん」
「お前達の彼女の事も教えろよ」
「親父の彼女のことしりたーい」
僕の彼氏は、綺麗で、繊細で、優しいって言うわけにいかないしねと彩と目配せして笑った。いつか、教えて上げるよ、親父。
お墓参りは、嫌いじゃない。昔は、苔むした石が並ぶその風景が怖かったけれど、ここにお母さんもお祖母さんもいるって思うと懐かしくなるから不思議だ。夏の日射しに焼けた墓石は、かけた水をあっという間に蒸発させていく。草をむしりながら、いつか僕達もここに一緒に入るんだなと思うと嬉しくなった。
「また来るよ」
親父の声は、少しだけしんみりしていた。兄貴が「彼女が出来ますように!」とお願いしているのをみて、「神様と間違えてるよ」と笑った。
「知らない神様より、ばあちゃんの方が威力ありそうじゃん」
「威力じゃなくて、御利益でしょ」
「もぅ、彩は細かいなぁ」
グリグリと頭を撫でる兄貴から彩を護るべく、間に立つと「邪魔!」と怪訝にされた。酷い、僕だって弟なのに。
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