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「ジュリエット・・・・・・」
わざと彩の少し長めの髪を耳に掛けて、そのまま耳から首筋に指で撫でると、細い息を吐き、彩は視線を上げた。
いつもの目とは違う、役に入っている時の顔だった。恋に落ちて、それでも家のことを考えると背徳感が滲み出る、そんな少女の色気のようなものを、一瞬で彩は作り出す。
あわよくば、彩に口付けようと思っていた浅はかな気持ちが砕けた。
「ロミオ様・・・・・・」
よく透る声に、少女は戸惑いをあらわしていた。
「あなたに口付けたい――」
まだ本を読んでいないから、よくわからないけれど、そんな言葉を選んだ。僕の本心だから、真摯な気持ちが溢れていると思う。
顔を伏せた少女の指が、僕の腕を握る。
顔を上げた時、少女の目は閉じられていた――。一瞬唇が震えて、少女の精一杯の勇気を感じた。
「愛してる――」
そっと、抱きしめて頬に口付けを落とした・・・・・・。目を開いた瞬間の花が綻ぶような笑みに、『僕グッジョブ!』と心で拳を握る。
「変な顔じゃなかった?」
少女が消えた・・・・・・。耳の先を赤くして、少し目元も火照ったような彩の顔に戻っていた。
「変じゃないよ。でも残念ながら、芹沢先輩はキスすると思う」
あの顔をされて、キスしないわけがない。吸い寄せられた雄のようになると思うんだ。舌入れたら、切り落としてやる。
「・・・・・・」
凄く嫌な顔で彩は不快感を示した。
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