運命ならそれでいい

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 『また男か。男ばっかり・・・・・・』  お祖母さんの声が、無遠慮に、まるで凶器のように振り下ろされて、ただ小さく丸まることしか出来ない。そんな僕に柔らかな温かい手が伸びて来て、優しく抱きしめられて、安心感の中で僕はもう一度眠りに落ちた。  小さな僕と同じその手は、僕のもう一人の僕だった。   「あのくそ婆、何が彩ちゃんだ」  横で悪態をつく僕の生まれた時からの相棒は、彩という。因みに僕の名前は雅。女の子が欲しかった祖母がつけた名前で、僕はあまり好きではない。  彩は、普段は真面目で、常識人で、そんな言葉を吐くような人間ではない。いや、限って言うなら祖母のことだけで、言う相手も僕だけなんだ。 「彩ちん、顔怖いよ」 「雅は、よく平気であの婆に触らせるよな。僕は無理だ」 「でもお祖母さん、もう・・・・・・」  あれだけ元気に僕たちを振り回していた祖母は、あっという間に小さくなっていた。僕たちは父親に言われて祖母に会いに病院に行く。母親は、僕らを産んでそのしばらく後に亡くなってしまったという。僕らには三人の兄と父親、そして祖母という家族がいる。でも、男の子五人の面倒は見れないと、中学に上がったらすぐに全寮制の学校に入れられた。  僕は彩のような憤りなどなかった。だって、彩がいればいいんだもの。彩がいれば、どんなところだって僕にとっては素晴らしき良き地なんだ。  でも彩は、僕の分まで怒っているのだ。双子、というのはそういうところが面倒だ。顔がそっくりなものだから、自分に降りかかったもの以外に相手のことまで自分のことのように思ってしまうのだ。 「ほら、手を洗って来いよ」  ハンカチを渡されて、洗面所へ行くように言われる。お年寄りに手を握られることくらい平気なんだけど、彩にとってはお祖母さんであることが我慢できないのだろう。 「過保護ー」  手を洗いに行ったのは、このままじゃ彩が手を繋いでくれないからだ。ついでにトイレをすませて、彩の元に戻った。
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