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自分に内緒で伊原と何やら連絡をとりあっていたのだろう。西に、裏切り者を批難するようなちょっと恨みがましい視線を送る。
「や、槇ちゃんがいいって言うまではここには絶対入れないけど。槇ちゃん、伊原と一回ちゃんと話したほうがいいよ」
西はそう言うと、窓のところに歩み寄りカーテンを少し開けた。
「あれ見てみ。伊原、ずっと待ってるって」
ソファから立ち上がり指差すほうを見ると、そこには見覚えのある伊原の車が停まっていた。車の中の様子までは槇の位置からは見えなかったが、あそこに伊原がいるのだ、と思っただけでぎゅっと心臓が引き絞られるようだった。
「あいつ、放っておいたらあそこで夜明かすよ」
「そんな事……」
「槇ちゃんも伊原も大人なんやし、俺がとやかく口出しできる問題ちゃうけど、時間が経てば経つほど話しづらくなるよ。な、伊原とちゃんと話してあげて」
槇は唇を噛みしめた。確かにそうなのだろう。優柔不断で流されてばかりいる自分の事だから、少し冷却期間を置こうなんて思っているうちに、きっとずるずると無駄に時間だけが経過して、そのままなし崩し的に全てがうやむやに消えてしまうのだ。それは、悲しすぎる。いくら、伊原とこのままの関係を続けていくわけにはいかないと思っていても未練がない訳がない。西に迷惑をかけたまま、意固地になっているのも申し訳ない気がした。西が背中を押してくれた、今を逃してしまえば、もう二度とチャンスは訪れないかもしれない。
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